米国が8月に25%の新関税措置 対日交渉の行方注視

トランプ米大統領は7月7日付で日本および韓国を含む14か国へ新たな「相互関税」措置を通知し、各国製品に対し、8月1日より一律25%の追加関税を課すと発表した。これは、自動車・鉄鋼・アルミ等に対する既存の関税とは別枠であり、輸入品には上乗せされない形となる。また、相手国が報復関税を課した場合には、米国も同率分を追加するとしている 。
東京市場では発表を受けて外需株が急落、特に自動車株を中心に売りが先行した。為替市場でもドル/円は円安方向に振れ、株式市場の不安定化が鮮明になっている 。輸出依存度の高い日本経済にとって、25%関税は輸出コストを直撃し、Q1時点で実質賃金が低下、GDPは縮小傾向にある中、さらなる景気圧迫が懸念されている。野村證券など一部のアナリストは、今回の関税導入により今期GDPが約0.26ポイント押し下げられるとの試算を示している 。
一方でトランプ政権は、関税適用の猶予期間を経たうえで、交渉による緩和の可能性を示唆している。書簡では「日本企業が米国内で製造・組み立てを行えば関税は免除する」との条件が記されており、実際に「数週間」での承認を行うと明記されている。
日本政府の対応と今後の交渉戦略
7月8日、石破茂首相は閣僚会議において「相互利益に基づく交渉を継続し、日本の国益を守る姿勢を貫く」と表明した。政府筋によると、8月1日の発効を回避するには「自動車と農業分野で最低限の譲歩が必要」との見方があり、農産物など高い関税で守られてきた国内産業との折衝が焦点となる 。
石破首相はまた、「8月1日が最終期限ではない。交渉の期限は柔軟に対応する」と強調し、実際、米側も「完全に硬いものではない」としており、合意に向けた実務的な調整が続く見込みだ 。
赤澤亮清通商交渉代表は、農業分野の大幅譲歩は国内政治的ハードルが高いが、自動車業界に見返りを得るためには米側の要求に一定の応じ方策も検討中だと述べた 。
一方、財務次官は記者会見で「為替の即時調整は予定しておらず、まずは関税回避に向けた交渉に全力を尽くす」と語り、日米間の通商交渉を引き続き重視する方針を示した 。
地政学と国際情勢が交差する構図
今回の関税措置は、経済的影響以上に地政学的な意味合いを持つ。トランプ政権は「貿易赤字こそが国家安全保障への脅威」との認識を示し、今回の日韓への強硬姿勢は米中対立とBRICS包囲網とも連動する戦略の一環と見られる 。
同時に、他の主要国との交渉も進行中で、英国・中国・ベトナムなどは妥結または部分合意に達しており、日本は交渉スピードにおいて後れをとる可能性がある 。EUも域内自動車産業の保護を図りながら妥協を模索しており、日米協調の枠外で独自の対応に乗り出す構えだ 。
輸出産業ではすでに、米国への電化製品や自動車部品輸出の契約見直しや価格への転嫁が検討され始めている。大手自動車メーカーでは「車両価格の最大10%程度の上乗せもやむを得ない」との声が社内から聞かれる一方、米国での現地調達比率を高めて関税回避を図る方針も浮上している。
また、日本企業の現地生産拡大にかかるコストや時間、米国内の労働・環境規制への適合も交渉材料となっており、短期的解決には限界があるとの認識が広がっている。