若手が選ぶ「辞めるプロに任せる」新卒・若手中心の広がり

若手が選ぶ「辞めるプロに任せる」新卒・若手中心の広がり

若手社員の間で、“辞め方”そのものへのストレスが新たな雇用課題として浮上している。従来の日本的転職観から離れ、「退職代行サービス」に殺到する20~30代の姿が目立ち始めた。

コロナ禍以降、日本の職場文化は大きな転機を迎えた。長時間労働、パワハラ、上下関係のストレスなどを抱えたまま、辞める意思さえ伝えられず苦しむ若手が急増。その背景から、第三者が代わりに退職手続きを行う「退職代行サービス」の利用が急増している。

東京・渋谷を拠点に展開する「モームリ」は、月2500件もの依頼を処理しており、利用者の約8割は20~30代だ 。依頼理由には「パワハラや嫌がらせを避けるため」(34%)、「即日退職を希望するため」などが挙げられ、若手を中心に「言いたくても言えない」「合わない職場には居続けたくない」という強い意志が背景にある 。

また、新卒入社1週間以内に依頼が相次ぐ現象も起きており、ある業者では入社初週で42件の問い合わせが集中し、前年同期比で2.8倍に跳ね上がった 。新卒社員の94%がサービスを認知し、25%が「利用を検討」と回答している調査もあり、若手層にとって退職代行が身近な選択肢となっている現状が明らかだ。

内定率の高さにもかかわらず「辞め方」でつまずく現実

2025年3月の大学生の就職内定率は92.6%と過去最高を記録した一方、若手が“辞めるプロ”に頼る現実が対照的だ。多くは入社前に提示された条件と実態のずれに直面し、ギャップへの失望から退職を決断。その瞬間に「辞め方」の行動すら困難な心理状態に陥っている。

SNS上では「即辞め」「即ヤメ」といった言葉が飛び交い、若手の間で「辞めづらさ」が可視化されたことで、サービスの心理的ハードルも低下した 。働き方の選択肢が多様化し、「無理はしない」が美徳とされる時代にあって、辞職そのものより「辞めにくさ」のほうがストレスになっている世相が浮き彫りになっている。

さらに、企業側の反応も変化しつつある。企業約1割は代行による退職通知を経験しており、「突然の辞意」を担当が受け取る機会が増加。かつてのような驚きや怒りだけではなく、「ああ、そうですか」と受け止める姿勢も出てきている 。

一方で法的グレーゾーンも指摘されており、非弁行為のリスクを回避するため、弁護士や労組監修のもと運営される事業者が増加している 。

企業と若手社員の間で、内定や入社前のコミュニケーションの重要性が、これまで以上に浮き彫りになっている。新卒内定率の高さに安住せず、「辞める手続き」もスムーズに行える環境づくりが、働き方改革の次なる課題として注目を集めつつある。